一首評〈第10回〉

町の灯を遠く指すとき古魔術のむかしは指の先に現る
澤村斉美 2000年6月10日の歌会より

自分の指をどのように見るか。
そこから広がっていく世界の果てしないことを、この歌は特に気負うことなく伝えている。
この歌の町の灯を指す指は、目から遠い位置に置かれている。
この歌の人物は、遠くにある指を自分の体の一部として見てはいない。
宙に浮かぶ指は町の灯と一体となる。この歌の人物はそこに「古魔術のむかし」を見る。
「古魔術のむかし」というのは不思議な言葉だ。
抽象的な言葉だが、この歌のなかでこの言葉は力を持っている。
それは、結句にある「現る」という言葉のせいだと思う。「現る」という言葉からは、この歌の人物と「古魔術のむかし」との間に五感を超えたつながりが感じられる。
この歌の三十一音の流れのなかで、読者は「異世界」へと引き込まれていく。
そこには無理がない。
そして繰り返し読むと、「町の灯」自身が異世界の断片のように思われてくる。
呪文のような歌だと思う。

金田光世 (2003年4月1日(火))