一首評〈第16回〉

波へだて遠ざかりゆく君のためなほまつすぐに告ぐる愛あり
高島裕 『雨を聴く』(ながらみ書房:2003)

「なほ」という一言が、これほどその生命をまっとうしている例をほかに知らない。
ここでは「それでも」ぐらいの意味だろう。「君」は遠ざかっていく、そのことは承知の上でやはり「君」に告げるべき愛がある。
ここにおいて「愛」は、物理や現象を脱し、永遠性を獲得したものへと変容している。
「なほ」は、ここでは永遠性へ到達するための踏み台だ。
「愛」の永遠に従事しようとする意志が、「なほ」に凝縮されている。
『雨を聴く』は、一冊を通して恋と愛を歌っている。
「夜もすがら氷を吐いてゐた君をほそほそと降り包む春雨」
「指先で君のちからを喚び出さう川面に跳ねる魚(うを)のちからを」なども良い。
相聞歌は生半可な思いで歌うものではないことを示す、熱い歌集である。

澤村斉美 (2003年11月1日(土))