一首評〈第2回〉

鮭卵がゆるりとなだれくる色にタクシーの灯の連なり崩る
堀野真実子 『京大短歌』 13号

地下鉄の出入口前、病院のタクシー乗り場。タクシーの溜まる場所はいろいろある。
この1首を読んだ時、街中で夜の渋滞に紛れているような、タクシーの客待ちの列を思い浮かべた。
いちばん前のタクシーが客を乗せて走りだしていくごとに、後ろに控える十数台のタクシーが一台分ずつ前に詰める。
ゆらゆらのろのろと動く灯の列と、鮭の卵のナマナマとした感じとの結びつきがおもしろい。
「崩る」という表現もいいと思う。
アルバイトを終えて街のにぎやかなところを通って帰るときにこのような光景を見る。
白熱灯の色や橙色、黄色、の灯をともすタクシーの列。
その緩慢な動きに合わせて、1日の緊張がゆるゆると疲れに変わっていくのを感じる。

澤村斉美 (2002年7月1日(月))