一首評〈第25回〉

京都を見下ろせるA棟の渡り廊下
各階に京都を見下ろす人はゐて風がそよげば白衣がなびく
北辻千展 『塔』 2004年10月号

『塔』十代・二十代歌人特集中の連作、「博士後期課程入学試験」より。
学校の渡り廊下での、とても静かな光景。試験の合間だろうか。
同じように白衣を着たひとたちが、渡り廊下で同じ風を浴び、平らに広がる京都の街並みを見下ろしている。
それでも、各階に散らばった彼らは肩を並べているのではない。
きっと言葉を交わすこともない。
無理がなくおおらかで、なおかつきちんとした佇まいの言葉の並びから、京都を一望する開放感と同時に、かすかな孤独が滲んでくるようである。
渡り廊下を見上げると、いつもこの歌が思い浮かぶ。
白衣をはためかせた誰かが、遠くの街並みを眺めている気がするのだ。

東郷真波 (2005年1月15日(土))