一首評〈第8回〉

爪持たぬ夜は満ちたりわが声を喰らへる鳥の止まりゐる針
増田一穗 2002年10月14日の歌会より

私を苛み、切り裂くような光の溢れる昼ではない。
世界を美しく染め上げ、忘我させる赤き朝や夕べでもない。
やんわりと私を窒息させる夜。
私が語りうるもの、いや、対象としうるものは何も、無い。
むしろ私だけではない、存在それ自体の夜。
私の居得無いところに時間も、無い…。
そんな永遠のような一瞬を「針」として切り取った、
思弁的でありながらも、直感的な部分を併せ持つ歌である。

中島祐介 (2003年1月1日(水))